2013年07月07日

◇ Winny と児童ポルノ法改正

 Winny と児童ポルノ法改正とは関係が深い。なのに見失っている人が多いので、指摘しておく。 ──

 Winny の作者が死去した。
  → Winny開発者・金子勇さんが死去 - ITmedia ニュース
  → Winny作者の金子勇氏が死去、急性心筋梗塞で:ITpro

 これを惜しむ声がネット界には多い。
  → Winny開発者の金子勇さんが急性心筋梗塞で亡くなられました。 - Togetter
  → Winnyの作者47氏こと金子勇氏の訃報に関するtwitterまとめ
  → 404 Blog Not Found:金子勇さんのこと

 この人(作者)自身に大きな才能があったことは疑いない。だから人間について言えば、惜しむ声が強いのも納得できる。
 ただ、本項では、人間を離れて、Winny というソフト自体について評価する。
( ※ 作者本人については特に評価しないでおく。)

 ──

 Winny について特に指摘したいのは、児童ポルノ法との関連だ。
 児童ポルノ法の快晴では、「単純拒否」の是非が議論されている。
  → 児童ポルノ:自民、公明、維新が「単純所持」禁止改正案

 ここで「単純所持」そのものを禁止するのは筋が悪い……とは私も思う。
 とはいえ、世界の大勢は「単純所持禁止」である。「取得のみを禁止で、単純所持は容認」というのは、(道理としては正しくとも)いささか甘すぎるとも言える。

 ──

 ここで、Winny との関連が話題となる。Winny は児童ポルノ流通の温床となっているのだ。
  → ウイニーで児童ポルノ公開して逮捕! ロリコンポルノ1万点所持

 この犯人は、大量の児童ポルノを所有していたが、そのほとんどは Winny を経由して取得したものだろう。つまり、
    Winny で取得 →  Winny で頒布

 という流れだ。
 こうして、 Winny のせいで少数の児童ポルノが爆発的に拡散することになる。

 だから、児童ポルノ法の改正をするならば、(一般市民のもつ)古い写真集の単純所持なんかよりは、 Winny 利用者によるデジタルデータの取得と頒布の方が圧倒的に重大であるわけだ。
 その意味で、単純所持を禁止したがる与党側も、禁止に反対したがる野党側も、どちらも核心からズレたところで議論していることになる。
 問題の核心がどこにあるかを、 Winny という概念で理解できるのだ。
 その本質は、「無償ソフトによる爆発的な拡散」なのである。

 ──

 しかも、この「無償ソフトによる爆発的な拡散」は、児童ポルノの違法・合法に関係なく、違法である。というのは、著作権法に反するからだ。
 このような違法行為を野放しにするという点も、 Winny の問題点としてある。

 例の Winny 開発者は、最高裁では「開発・配布行為は無罪」というふうに判決が出た。その理由は、こうだ。
 最高裁は適法にも違法にも利用できるWinnyを中立価値のソフトだとし、「入手者のうち例外的といえない範囲の人が著作権侵害に使う可能性を認容して、提供した場合に限って幇助に当たる」との判断を下した。
( → Wikipedia
 これはかなり奇妙な判決である。Winny のトラフィック(流通)を見れば明らかなように、そのほとんどは著作権侵害のデータの流通だからだ。実例は下記。
  → http://takagi-hiromitsu.jp/Nyzilla/fig/1.png
  → http://takagi-hiromitsu.jp/diary/fig/20090923/1.png
  → http://takagi-hiromitsu.jp/diary/fig/20091103/18.png
  → http://j.mp/13tNa2h
( ※ これらのデータは Nyzilla によって取得された。)
 
 要するに、最高裁判決は、現実に反する虚偽を前提とした上で、「無罪」という判決を下した。
 なるほど、犯罪行為が存在することを見ないのだから、無罪判決が下るのは当然だ。人を何人殺した殺人犯であっても、その犯罪行為自体を認定されないのであれば、無罪になるに決まっている。
 だから、ここで被告が無罪になったからといって、「 Winny には犯罪性がない」と見なすのは早計だ。裁判所が言ったのは、「犯罪はなかったから無罪」ということなのである。上記のようなデータをまるで無視した上での結論なのである。それはいわば「砂上の楼閣」であるにすぎない。
 簡単に言えば、裁判所が言ったのは、「 Winny による被害などは存在しないから、被告は無罪」ということだ。

 ──

 しかし、そのように判決が下ろうが下るまいが、現実には被害は発生している。次の事例のように。
  → 児童ポルノとして自分がwinnyに流れいる可能性が
 児童ポルノとして自分が子供の頃いたづらされた動画がwinnyに流れいる可能性があるとある人から指摘されました。(居酒屋で知らない人に俺が見た動画に出てる子に顔が似てるといわれました)
 そうゆう被害にあったことは子供の頃にあるので(誰にも言っていません)怖くなり……(以下略)
 こういう例は、あちこちで言われている。実際、杞憂ではない。その証拠が、先に示した 児童ポルノ1万点 という犯罪例だ。こういう犯罪者がいて、Winny で流す。だからあちこちに爆発的に拡散するわけだ。そして、その分、被害者が現実に発生する。
(なお、被害者は最近の被害とは限らない。古い写真をスキャンして電子化した例もありそうだ。)

 ※ 実は、Winny でなくても、女子高生のポルノはネット上で
   けっこう流通している。「素人 ハメ撮り 中学生」
   のような検索語でヒットする。(お勧めはしません。)
 ※ 撮影は、本人も知らない間になされた盗撮がかなりある。

 ──

 このように児童ポルノの被害は実際にたくさんある。このような被害を防ぐには、何らかの法規制が必要だ。特に、電子的な媒体での規制が必要だ。現状のように野放しであることは、好ましくない。
 与党が「単純所持」を禁止しようとすることについて、ネット界では「反対」の声が強い。なるほど、それは、「古い写真の所持」ぐらいについてなら、妥当だとも言える。しかし、電子的な媒体だと、Winny やネットなどによって爆発的に拡散することがあるのだ。それゆえ、「現状のままでいい」ということにはならないのだ。

 この問題について、核心がどこにあるかを、本項では指摘しておいた。
 このあと、法規制をどうするかは、法律関係者の仕事だろう。ただ、核心がどこにあるかを、きちんと理解しておくべきだ。
 今の状況では、与野党とも、問題の所在をまともに理解できていない。そのせいでピンぼけな議論ばかりがなされている。
( ※ 「Winny を規制すれば万事解決」というわけではないが、Winny の規制は避けて通れない問題だ。)

 なお、この件は、高木浩光氏も以前から指摘している。
 日本には、Winnyという日本特有のP2P型ファイル共有ネットワークが定着してしまっている。…… Winnyに児童ポルノが流通しているらしいことは、Winnyを使ったことのある人なら気づいているはずだ。
 それなのに、規制強化を求める団体も、キャンペーン記事を流す新聞も、そのことに全く触れてこなかった。日本の「児童ポルノ大国」ぶりを実証できる題材なのに、誰もそれをしない。
( → 高木浩光@自宅の日記
 児童ポルノ法改正の論議は、電子媒体の拡散(特に Winny の問題)が抜けているがゆえに、あまりにも尻抜けなのである。



 [ 付記 ]
 Winny を巡る論議では、次のように語られることが多い。
 「 Winny は包丁のようなものだ。包丁を作った人には責任はなく、包丁の使い方を間違えた人に責任がある」……(*

 もっともらしい理屈だが、それをもって「包丁は解禁されているから、Winny も解禁するべきだ」というのは、おかしい。それは、「銃所持自由論者」の主張と同じであるからだ。
 
 実は、(*) の理屈は、米国の中製造業者の理屈と同様である。
 「銃はナイフのようなものだ。(ナイフと同様に)銃を作った人には責任はなく、銃の使い方を間違えた人に責任がある」

 こういう理屈で、「銃所持の自由」を主張した。そのせいで米国では銃所持が自由化され、あげく、全米でしばしば銃乱射の大被害が発生する。さらには銀行強盗が銃を使ったりする。警察だって容易に銃を発射する。
  → 主人を守ろうとして警官に射殺される犬 - YouTube

 こういうふうに「安易に銃を用いる」という社会がある。(警官は、スマホで写真を撮影されたというだけで、銃で射殺した。この理屈が通るのであれば、日本中で毎日、莫大な数の射殺事件が起こるだろう。酷い社会。)
 Winny の作者は、それと似た効果を発揮した。「誰でも自由に銃を発射できる」という社会を作るように、「誰でも自由に著作権侵害」や「児童ポルノの頒布」ができる社会を作った。
 そして、それを多くの人々が「すばらしい」と称賛する。ちょうど、「銃の自由所持は素晴らしい」と称賛するように。
 しかし、人々がお手軽に犯罪をすることができる社会が、本当に素晴らしい社会なのだろうか? あるいは、「素晴らしい技術的発展をもたらした技術者は、素晴らしい技術者」なのだろうか?
 たとえば、原子爆弾を開発した科学者や、原子爆弾で莫大な死者を効率的に発生させる計算をした科学者は、その素晴らしい知性ゆえに称賛されるべきなのだろうか? 
  
 原爆の開発者の一人に、ファインマンがいる。彼は原爆の開発に携わったが、事後には、こう書いている。(原爆の開発について。)
 そのとき、僕をはじめみんなの心は、自分達が良い目的をもってこの仕事を始め、力を合わせて無我夢中で働いてきた、そしてそれがついに完成したのだ、という喜びでいっぱいだった。そしてその瞬間、考えることを忘れていたのだ。つまり考えるという機能がまったく停止してしまったのだ。ただ一人、ボブ・ウィルソンだけがこの瞬間にも、まだ考えることをやめなかったのである。
( → 知的な書評ブログ: ファインマンの教訓
 今からでも遅くはない。思考停止した人々は、ファインマンの言葉を聞いて、思考停止状態を脱するべきだろう。
 


 【 関連サイト 】
 
 → 地下鉄サリン事件の犯人の判決
 サリンを製造しただけで死刑。散布して人を殺したわけでもないのに、製造しただけで死刑。
( ※ 「包丁とサリンとは違うからだろ」という反論が来そうだ。実は、その反論こそ、私の指摘したいことだ。「包丁と Winny とは違う」ということだ。)


 → 金子勇氏 | マイナビニュース
  作者は Winny のあとで、犯罪の起こらないようなタイプの P2P ソフトを開発した。犯罪性のあるファイルは中央制御で削除するタイプ。これは問題がない。
  この意味でも Winny は欠陥ソフトであった、と評価できるだろう。だからこそ、作者は公開のときに、匿名で公開したのだろう。
  作者が純粋な研究者であったならば、開発だけして、一般公開はしなかったはずだ。なのに2ちゃんねるで公開してしまったことで、今日に至る多大な被害者が発生することとなった。

 ──

 ついでに、良いコメント(はてブ)を紹介しておく。
 「きちんとバッグしたかった」←それなら最初からオープンソースで開発し、万が一のためのバックドアやWinnyネットワーク破壊コマンドを作っておくべきだった。彼は包丁ではなく機関銃を作り、乱射されるにまかせた。
( → はてブ



 【 関連項目 】
 
 → Google and Me ブログ: Winny は 包丁か?

 → Winny についてのいろいろ(サイト内 一覧)
  (たとえば 裸体画像の流出 のような話題もある。つまり、
   Winny の被害は、児童ポルノに限らない。いろいろある。)
posted by 管理人 at 20:25| Comment(3) | Winny | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
Winny で問題だったのは、「自爆装置」が用意されていなかったことだろう。「バルス」という信号を送ると自爆する、というふうに設定しておけば、何も問題はなかったはずだ。
 なぜなら、自爆後に、問題のない新バージョンを頒布すればよかったからだ。データは失われないから、ユーザーはバルスをうけて旧バージョンが消えたあとで、新バージョンをインストールすればいいだけ。
 作者は「デバッグができなかったのが問題」と言っているが、デバッグしたところで、使い勝手が悪ければ、ユーザーはそれを使わない。旧バージョンを強引に使わせなくするには、「バルス」が必要だった。

 ラピュタの公開は、1986年。Winny の公開は 2002年。ラピュタの「バルス」を学んでおくべきだった。
Posted by 管理人 at 2013年07月07日 22:57
「殺人ウイルスや原子力エンジンの暴走、狂った電子頭脳を止めるためには、
 研究施設に自爆装置を併設するのが研究者の良心、というものです!」
という、野球ゲーム(?)パワポケ3の言葉を思い出しました。

今、Winnyとは、欲望が誰かを侵害する狂った電子頭脳のようなもの、なんですね…。
管理人さんが仰るように、「自爆装置」が必要だった。
Posted by 無機名 at 2013年07月08日 08:20
児童ポルノ法改正案は、下記の通り。(一部抜粋)
 「何人も、みだりに、児童ポルノを所持し、又はこれに係る電磁的記録を保管してはならないものとすること。」
  → http://j.mp/12PXNow

 また、意図しないでパソコン内に保管されている場合には、「禁止」とはされるが、罰則はないそうだ。
  →  http://j.mp/12PXLwY

 つまり、今回の改正案では、Winny による児童ポルノ流通は、実質的に野放しとなる。「やってはいけないが、罰則なし」ということだ。ザル法。
Posted by 管理人 at 2013年07月08日 14:57
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